「歌舞伎町アートセンター構想委員会」 発足
街の守護神である歌舞伎町弁財天(歌舞伎町公園)に隣接する
王城ビルは、1964 年の竣工と歌舞伎町 古参の建物で、城を模した独特のデザインで愛されながら、当初は名曲喫茶、キャバレー、カラオケ店、 居酒屋へと業態が変化し、
2020 年 3 月まで続いてきました。
2022 年大晦日の WHITEHOUSE によるカウントダウンパーティーを皮切りに、EASTEAST_や HEAVEN のワンナイト
パーティーの開催など、試験的にイべントを繰り返してきました。
この流れを受けて、任意団体「歌舞伎町アートセンター構想委員会」が立ち上がります。 今後、王城ビルが街に愛され、街と人をつなぐ交歓・交流の場として、東京・歌舞伎町のアートのハブとし ての役割を担うために、どのような機能を持った場が必要かを検討し、提案していきます。
委員会からの提案による、記念すべき第一弾は、大星商事株式会社(王城ビル所有者)と Chim↑Pom from Smappa!Group のプロジェクト型展覧会「ナラッキー」を開催いたします。
本展にていよいよ全館を 使用し、来年以降の本格始動へと向けた第一歩といたします。
●歌舞伎町アートセンター構想委員会●
方山堯
(王城ビル所有者:大星商事株式会社取締役)
卯城竜太(Chim↑Pom from Smappa!Group)
手塚マキ
(歌舞伎町商店街振興組合理事、Smappa!Group 会長)
山本裕子(ANOMALY)
田島邦晃
歌舞伎町王城ビル Photo by 林靖高
プロジェクトについて
王城ビルには約 30年間ざされてきた4フロア分の吹き抜けがあります。
建物のデザインからして城の 裏側といったその空間に、Chim↑Pom from Smappa!Group
(以下 Chim↑Pom)が新作インスタレーショ ンを制作、常設設置を試みます。
そのお披露目を兼ねた展覧会を、パフォーマンスや音楽などと絡めて開催。
レストランや各種イべント、ショップも Chim↑Pom が手がけ、1カ月限定の
「Chim↑Pom from Smappa!Group による美術館」のような 施設を仮設します。
テーマは「奈落」
歌舞伎町という名称は歌舞伎座を誘致しようとした戦後の都市計画に由来します。
大建築禁止令などに よってその目論見は頓挫しましたが、戦前新宿にあった「新歌舞伎座」(松竹)が 3年ほどで大衆演劇の 場に移ったことなども相まって、
歌舞伎座という伝統と歌舞伎町という歓楽街のミスマッチは都市論や文化 論で語られてきました。
都市論的にいえば、水辺という低地で発展した歓楽街と、高台で保守化する文化のコントラストを考察す る『アースダイバー』(中沢新一)は、その冒頭でまさに王城ビルの隣の「歌舞伎町公園(歌舞伎町弁財 天)」を取り上げることで論旨を明らかにしています。
沼地を埋め立てたことを標すこの公園には、水の因縁として弁財天が祀られ、変わりゆく街の中で唯一変わらない場所として、街の精神性をいまに伝えてきました。
Chim↑Pom はそれらの文脈に閉ざされてきた吹き抜けを重ね、今回、その空間を「奈落」として読み取る ことを試みます。
翻訳サイト「DeepL」では「The End」と訳され、落下事故やかつての暗い雰囲気などから、仏教用語で地獄を意味する言葉で名付けられた「奈落」。
「奈落に落ちる」の慣用句に代表されるように、江戸時代には 舞台の地下は忌まわしい場所として遠ざけられていたようです。
実際、奈落で働く人々はかつて「穴番」と 呼ばれ、その閉鎖性は底無しの穴や沼のように捉えられてきました。
Chim↑Pom は、歌舞伎への敬意と歌舞伎町の歴史への接続から、吹き抜け空間に実際の奈落で録音さ れた歌舞伎公演の音を流します。
録音は、歌舞伎界の新鋭として次世代を担い、現代アートに関する著 作もある尾上右近の自主公演第七回『研の會』「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」公演中の奈落。 そこから何が聴こえているのか......。
歌舞伎町に転送された環境音から、奈落のリアリティに迫ります。
また、吹き抜け空間にはセリも登場。カッティングしたトラスが上下するサイトスぺシフィックなビルの彫刻作品となります。
さらに、吹き抜け空間の上部階である屋上にも穴を開け、「奈落の底」である最下層部の床も解体。
閉鎖空間を外へと接続し、奈落の概念を街と天へと上下左右に拡張します。
歌舞伎超祭とのコラボレーション
本展では今年 3 回目を迎える「歌舞伎超祭」のフィーチャーも特徴です。ドラァグクイーンやポールダンス、バーレスク、車椅子ダンサー、ファッションなどの
パフォーマンスをミックスした歌舞伎町独自のフェスですが、その演者たちを迎え、彼ら・彼女らの動きから展示のエッセンスを作り出します。
彼らが体現してきた独自な歌舞伎町の風俗(時代や街の生活上のしきたりや有様)は、翻って、歌舞伎の ルーツに接近するような逆転現象を生んできました。
そもそも、江戸時代の「二大悪所」は歌舞伎と遊郭であったと伝えられるほどに、歓楽街と芸能には強い関係があります。
歌舞伎の祖である出雲阿国は茶屋遊びのパロディとして登場し、その流行を広めたのは遊郭での「女郎 歌舞『妓』」でした。
ともに演者が女性であったことから、勃興当時の歌舞伎の「き」は女へんの「妓」が使われていたと伝えられます。
また、野朗歌舞伎における女形を挙げるまでもなく、阿国一座の男装と女装をルーツとする歌舞伎の芸風 は、昨今議論される性のトランスの歴史にも独自の示唆を与えるでしょう。舞台という場を、能など異界のものから、人々の世俗やクィア的なるものへと解放した歌舞伎の革命性 は、だからこそ、当時の男尊女卑的な価値観や道徳観においてさまざまな軋轢を生みました。発生から地芝居(素人歌舞伎)を通して全国に拡散された歌舞伎の成り立ちは、そのまま為政者による禁令との戦いの歴史であったと言えるでしょう。
「奈落」——。輝かしい表舞台を支える地下は、そのアンダーグラウンドな精神性を時間軸へと拡大して考 えれば、プレッシャーに対して幾度も変異を繰り返してきた芸能の、その「スーパーラット」的な歴史が重な る空間として解釈出来ないか......。
本展閉幕後も常設予定のこのインスタレーションは、歌舞伎町のアイデンティティや芸能・芸術の本来の姿を、将来にわたって確かめる場になるかもしれません。
Chim↑Pom from Smappa!Group
卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀により、2005 年に東京で結成されたアーティスト コレクティブ。 時代のリアルを追究し、現代社会に全力で介入したクリティカルな作品を次々と発表。世界中の展覧会に 参加するだけでなく、独自でもさまざまなプロジェクトを展開する。 結成当初より、「個と公」を表象した「都市論」をテーマに、さまざまなプロジェクトを公共圏で展開。毒に耐 性を持つネズミを捕獲する「スーパーラット」(2006-)、上空にカラスを集めて誘導する「BLACK OF DEATH」(2008, 2013)、メンバーのエリイの結婚式をデモとして路上で行った「LOVE IS OVER」(2014) などの他、自らのアーティストラン・スペースに公共のあり方を実践する「道」自体を敷地内に取り込んだ「Chim↑Pom 通り」(2016-)など、ストリートの可能性を拡張してきた。
2017 年、台湾で開催されたアジアン・アート・ビエンナーレでは、公道から美術館内にかけて、200m の道 「Chim↑Pom Street」を敷き、公私を超えた独自のレギュレーションを公布、ブロックパーティやデ モの場となり、伝説となる。
2018 年には、東京オリンピックに伴う再開発の中で、建て壊される直前の歌舞伎町のビルで制作したプロジェクト「にんげんレストラン」を発表。様々な人々と場所性が混じり合うライブなアートイベントとして、社会にスポンティニアスな生き方を提示し、大きな影響を与えた。 ほかにも大量消費・大量廃棄による環境問題や、メンバーの人生自体をテーマにした作品などにも取り組 んできた。多くのプロジェクトを一過性のものとして消費せず/させず、書籍の刊行などによって議論の場やアーカイブを独自に創出。膨大なニュースの中で埋もれそうになってしまう事象への警鐘として、プロジェクトをさまざまな形に変容させながら継続している。
また同時代を生きる他のアーティストたちや様々なジャンルの展覧会やイベントの企画など、キュレーションも積極的に行い、アーティストの在り方だけでなく「周縁」の状況を変容、拡大させている。 そのプロジェクトペースの作品は、日本の美術館だけでなくグッゲンハイム美術館、ポンピドゥセンターなどにコレクションされ、アジアを代表するコレクテブとして時代を切り開く活動を展開中。
2022年4月 Chim↑Pom から Chim↑Pom from Smappa!Group へ改名。